2012年11月12日月曜日

サマースクール 復習 その22

* 熱力学
熱力学の本(田崎)を見てみると、
熱平衡という概念があり、
平衡状態は、
環境という概念と、線形関数である示量変数の概念によって指定される。
環境と示量変数の組が状態空間を定め、状態空間上の関数として、状態量が定まる。
平衡状態に対する操作として、
- 環境を変化させない等温操作
- 環境に変化を許す断熱操作
の2種類がある。
操作に対して不変な式として状態方程式が存在する。

熱力学特有の概念として、
- 最大仕事と呼ばれる示量変数
が存在し、等温操作における仕事は最大仕事に等しい。
最大仕事を用いて、熱力学関数であるHelmholzの自由エネルギーが定まる。
すなわち、断熱操作に対する依存性が記述できる。
Helmholzの自由エネルギーの、
断熱操作の環境のパラメータに対する依存性を記述する示量変数として、
エントロピー、
が定義される。
状態に対する操作は一般に可逆ではなく、非可逆性を表す尺度として、
エントロピーが用いられる。

以上の概念を、もう少し馴染みやすい数学の言葉でアナロジーを作ってみる。
Constructuble sheafという概念があり、
Constructible sheafは、
sheafが定義される空間という概念と、Grothendieck群上の線形関数であるConstructible functionによって(一意ではなく)指定される。
Constructible sheafに対する操作として、
- 空間を変化させずGrothendieckのsix operationを行う
- 空間の変形(A,B-model双方の意味で緩く)
の2種類がある。
操作に対して不変な式として、相対Riemann-Roch(あるいはConstructible shaefに対するindex theorem)が存在する。

空間変形に対する依存性として、障害類の概念が定まる。
また、接続によるliftingにより、断熱操作に対応する状態が定まる。

非可逆性に対する尺度として、"重み"が対応するべきと思われるが、
"重み"は、Constructible sheafを単純層のextenstionで書いた時の矢印の向きを規定するもので、
そのままでは、示量変数とはならない。

* 統計力学
熱力学は、マクロな概念である熱の起源の説明を、ミクロの世界の言葉を使用する統計力学に委ねた。
では、そのアナロジーとして、Constructible sheafをよりミクロな世界の言葉で記述できるか、
という疑問が生じるが、
空間を固定した時に、
その上のConstructible sheafの複体のなすdg圏と
その余接空間をSymplrectic多様体と見た時の深谷圏のtriangulated envelopの圏が、
microlocalizationを通して同値、
ということが成り立つ。(空間はコンパクト実解析的多様体)
深谷圏におけるブレーンの射は擬正則多角形の個数であるから、
これはミクロな言葉で記述されている、と思ってよいだろう。

Constructible Sheaves and the Fukaya Category
http://arxiv.org/abs/math/0604379v4
Microlocal branes are constructible sheaves
http://arxiv.org/abs/math/0612399v4
Fukaya categories as categorical Morse homology
http://arxiv.org/abs/1109.4848v1

Springer theory via the Hitchin fibration
http://arxiv.org/abs/0806.4566v3
l進層およびLaumonのFourier変換の代わりにmicrolocal geometryの言葉を用いる。

* l進層における重み
l進層においては、Weil予想により"重み"は定義されていて、
良い性質を持っている。
http://www.ams.org/journals/bull/2009-46-04/S0273-0979-09-01268-3/S0273-0979-09-01268-3.pdf

Q:l進層において、なんらかのブレーンの深谷圏による記述は存在するか?
- l進層において、microlocalizationにおける特性cycleに対応する概念は存在する

INTRODUCTION TO WILD RAMIFICATION OF SCHEMES AND SHEAVES
http://swc.math.arizona.edu/aws/2012/2012MiedaSaitoNotes.pdf
l 進層の特性類と分岐について
http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~t-saito/jd/ag.pdf

Q:l進層のブレーンによる記述によりKatz-Sarnakの定理の自然な解釈ができるか?

* 混合モチーフの圏
l進層、Hodge加群といった"重み"の存在する圏の親玉に対応するものとして、
混合モチーフの圏がある(だろうと思われている)。
導来圏は構成されている。
Q:もしl進層の導来圏にブレーン解釈が存在するなら、混合モチーフの導来圏にも同様の解釈ができないか?
ただし、
その場合のブレーンに対応するものは、
宇宙際理論によれば、簡単に記述できるものでは無さそうだ。

12 件のコメント:

yeoman@topology さんのコメント...

融通性があっておもしろい。

匿名 さんのコメント...

ご無沙汰してます。いやあ今回のシリーズは力はいってますね。ついに私以外のコメント投稿者まであらわれました。(誰?) 私には反応しようがない分野なのが、大変残念です。

ところで、この本を職場の近くの本屋でみつけたのですが、ご存知ですか。aka氏の守備範囲ですよね。「暗黒通信団」って何だ?

http://x86.cx/

パターン認識と機械学習の学習-ベイズ理論に挫折しないための数学 (光成 滋生 著)

aka さんのコメント...

>yeoman@topology
コメントどうもありがとうございます。
およそ数学になっていないので期待はしないでください。

aka さんのコメント...
このコメントは投稿者によって削除されました。
匿名 さんのコメント...

いや実は「社内での勉強会をもとにして、、、」と書いてあったので、なんかあなたと似たようなこと言ってるな、とピピッときたのですが、別の会社ですか、そうですか。

あなたの母校の人ですか。私はあまり、あなたの母校に詳しくないのですが、著者は先輩ですか、交配ですか?

>社内失業から脱出

おめ。

aka さんのコメント...

>著者は先輩ですか、交配ですか?
それは私もよくわからないです。

匿名 さんのコメント...

上のコメントなどで、あなたのプライヴァシーに触れそうなものは、遠慮なくカットしてください。

それはそうと、パンと丼の人がラノベ風の本を書きました。あなたごのみでしょうか?

+++++++++++++++++

http://gendaisugaku.blogspot.jp/2012/11/blog-post_1.html

広がりゆくトポロジーの世界  ―言語としてのホモトピー論―

aka さんのコメント...

>広がりゆくトポロジーの世界  ―言語としてのホモトピー論―

個人的には、
球面とか、写像錐とかは、
むしろ幾何学的に考えると訳がわからなくなったので、
単なる代数操作として書いてもらいたいですね。

さらに、"言語"というのは、
話者だけではなくて、
興味を持って聞いてくる人、もしくは読んでくれる人、
が存在して初めて伝達手段となります。
そして、世の中の大半の人は、今眼の前にあること以外は興味が無いのです。
もしも、すでに頭の硬くなってしまった人たちを対象にして、
"言語"としての機能を果たすことを意図して記述されている書物であるなら、
その勇気には敬意を表します。

ちなみに、過去に、
Persistent homologyの説明を求められたことがあって、
http://mathsoc.jp/outreach/2011aki/tamaki.pdf
を見せましたが、
全くわからない、と言われました。

匿名 さんのコメント...

Info:こんなのでてたぞ。統計もグレーブナーも詳しい貴殿としてはどうよ。普段から貴殿は確率論の将来性をかっているみたいですが、統計に関してもですか?

Markov Bases in Algebraic Statistics, Satoshi Aoki、Hisayuki Hara、 Akimichi Takemura

http://www.amazon.co.jp/Markov-Algebraic-Statistics-Springer-Series/dp/1461437180/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1353308805&sr=8-1

aka さんのコメント...

>Markov Bases in Algebraic Statistics, Satoshi Aoki、Hisayuki Hara、 Akimichi Takemura

統計、及び機械学習が身近になったのは、
PC上で無料で実行できる環境が整ったためです。
統計であればR、
機械学習であれば、python上のscikit-learnやInfer.NET。

数学においては、無料で動作する実行環境と、それに対する手引書が少ないのが現状だと思います。
少なくとも、応用数学として使用されたいのであれば、
寿命の長い無料ソフト(たとえばSage)の上で動作確認できる環境を整えないと意味が無いと思います。
その意味で、上記の本はまだ足りない、と思います。
グレブナー基底の方は、いろいろ実行環境が整ってきているようですね。

匿名 さんのコメント...

即答したところをみると、すでに目を通していたのですか?aka氏、おそるべし。

aka さんのコメント...

>すでに目を通していたのですか?
すいません、本は見ていません。

http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/atstat/athp/upcoming_talks.html
の、
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/atstat/takemura-talks/0906-yamagata-slide.pdf
を眺めたことがあって、
なんで確認用のプログラムがないんだろう、
と思っていたので。